「リジョイス・マネージメント」
(有)コミュニティ・アイ
ファシリティ・マネージャー山口浩二
はじめに
笑う門には福来る。新年を迎えるにあたり、皆様に私たちのささやかな経験談をまじえ、障害者情報ネットワークの現状から、ネットを介した在宅就労のお話を、紙幅の許す限りお伝えできればと存じます。
発端
私の場合の発端も、「福祉パソコンネットワーク山形」という障害者情報ネットワークの集まりでした。この会が主催していた「インターネット講習会」に参加したのが5年前。パソボラで参加していたN氏との出逢いが、その後の私の活動に、決定的な影響を与えたのです。N氏は健常者ですが、私たち障害者の置かれている社会的状況に対する理解度が深く、同じ人間同士として、全く違和感なく話すことができました。
意気投合した私たちは、ITコンサルティングとしての志を立て、「(有)コミュニティ・アイ」を設立(H15年4月)。障害者でもネット上なら、はるかに働き易い環境があると言う事を、多くの方にご理解いただけるよう活動を開始したのです。
「ユニバーサル・ネットワーク」
さて、一般的な就労環境の変化について概括します。

n 平等な機会
IT技術の目覚しい進歩、情報端末の普及から、障害者の在宅就労環境においても、大きな可能性が開け、やる気さえあれば自らの努力によってチャンスをつかめる機会が現実に広がりを見せつつあります。
在宅就労(勤務)の特徴1. 通勤からの解放2. 時間的拘束の緩和3. 自分の体調に合わせられる4. 業務指示のメール利用
IT技術が実現しつつある新しいワークスタイルはとても魅力的です。インターネットという武器を使えば、閉ざされていた重い扉を開くことも可能となりました。恵まれた時代に生まれ合わせたことにワクワクしています。
n 対等な立場
例えば、最近の知見でよく言われだしたことで、広葉樹林の構造から見た場合、多種多様な樹木が混在することがリスクを分散し、さらに広葉樹林全体の公益を保証しているといいます。そうなのです、一見何の役にも立っていそうもないような、名もない樹林の下草であっても、広葉樹林全体の生命の活力を表現してくれているように感じます。
人間の一方的なものの見方。雑草としか見ない貧しい想像力を超えた樹林の下草のありよう。いったん、その樹林の下草の立場に立って、広葉樹林全体を見渡してみれば、なぜそこにこうしてこの名もない雑草が生えているのか、生えていられるのかが判るでしょう。これが、ノーマライゼーションという理念の本質です。
私たち障害者が、あらゆる摩擦を乗り越え、社会参加と経済的自立をめざし、自らの力で立ち上がるとき、名もない雑草が、こうして生きていくことのホントウの意味が見えてくるのです。
n 同等の能力
しかしながら、私たちがどのような矛盾や疎外のなかにあっても、この社会の中で楽しく働いて行くには、それなりにビジネスのルールと秩序に従い、自らの責任のもとに行動しなければなりません。社会人として、同等の能力を問われるのは、この自己責任の能力そのものです。「自己責任」を忘れて、社会参加も経済的自立もあり得ないことを、私たちは肝に銘ずべきでしょう。
n スキルの問題
障害者がネット上で働こうと思うときの問題について一言触れます。
現場経験の少ない私たちにとりまして、そのスキルをどうやって身に付け、戦力として認めてもらえるかどうかは、大問題です。この問題を解決するために、私たちは小規模ながら実践的OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を自ら開発実施し、業務のためのノウハウの蓄積を図っています。
n デジタルからユニバーサルへ
デジタル・ネットワークの進化は、大きく私たちの生活を変え、企業の経営戦略にも影響を及ぼしています。情報格差に関しましても情報技術標準化研究センターが、JIS素案「高齢者・障害者等配慮設計指針」というレビューを昨年3回に分けて公開いたしました。ホームページ閲覧の際の様々な配慮がJIS規格として標準化されようとしているのです。いわゆる情報弱者にも優しいネットワークにして行こうという狙いなのでしょう。
デジタルを超えていくユニバーサル・ネットワークとは、膨大な情報の蓄積をもつインターネットを介して、人類の大いなる知恵へ応用を利かすことではないでしょうか。勇気を働かせて、私たち自身の意識を変革し、競争から共創へ、お互いの立場を尊重し合う共感と共生の社会システムを構築できたらと思うのです。
「リジョイス・マネージメント」
私たちがこうして障害者情報ネットワークを通して社会参加し、経済的自立をめざし活動するようになって一番大きく変わったことは、他人のために少しでも役に立てると言う実感から湧いてくる「生る喜び」でした。
私どもの現在の主な業務は、山形県内の温泉地の旅館や宿泊施設のホームページのプロデュースと、さらにその旅館が抱える様々な問題に対して、解決のための代案を提案し、この厳しい不況の中で、少しでも誘客数の増加を図り、収益性向上のお手伝いをすることです。業務をはじめて3年。クライアントである宿とともに悩みながら、訪れて頂いたお客様の満足・感動をどう演出するのか、一つ一つ、実験と検証の連続でしたが、ようやくここに来てある形が見えてきたような気がしております。先日、当社がプロデュースしているある旅館さんに届いたお客様からのサンキューメールを紹介します。
★ご親切ありがとうございました
また楽しい思い出が一つ増えました。本当にありがとうございました。部屋から見る、日本海の夕日は本当に素晴らしいものでした。そして、心のこもったお料理、おもてなし有難うございました。従業員の皆様本当に有難うございました。 新潟県水原町 Kさん
この旅館の名前は湯の浜温泉「ホテル福住」と言うのですが、こちらでは宿泊プランの企画から、メニュー(料理)の開発まで担当させて頂いております。さらに、ホームページ作りに従業員の方も参加していただき、そのことによって、お客様へのサービスのあり方を自覚的に改めていただけるような取り組みもしております。その効果が次第にこの旅館全体の顧客満足度を引き上げ、誘客実績も着実に伸びてきています。結果として上記のサンキューメールを頂ける旅館に変わってきたと言うことです。それは私たちの力ではなくて、旅館の経営者の深い理解と、従業員さんたちのたゆまぬ努力があって初めて実現できたのだと思います。
では何故このような成功モデルを構築できたのか簡単に分析しますと、私たちの提案を素直に聞き入れていただけるような、お互いの信頼関係が強く作用した賜物なのではなかったのかということです。ここで実感することは、自分の仕事が多くの人の喜びにつながり、それが直に自分の喜びとして跳ね返ってくると言う事実です。
そうです、私どもに取りまして、デジタル・ネットワーク自体が、いわゆるコンヴィヴィアリティのための道具として、非常にうまく機能し始めているのです。コンヴィヴィアリティとはメキシコの思想家イヴァン・イリイチの言葉で、インターネットが実現しつつある新しい社会の理念を示す言葉です。
1970年代初頭アメリカのハッカー達が、このイリイチの思想に触れて立ち上がり、マイクロプロセッサの開発に成功し、PCを生む直接の契機となったそうです。お陰で値段が安くなり、私たちでもこうして楽しくPCの恩恵に浴することができるようになったというわけなのです。そして、彼らが注目したコンセプトがいわゆるイリイチのコンヴィヴィアリティでした。コンヴィヴィアリティとは、そもそも「宴を楽しむ」と言う意味なのですが、ハッカーたちはその持ち前の楽天的な思考から、自分達の仕事を大いに楽しむことが、結果として社会にいい影響を与えるだろうと言う事を予感していたのかもしれません。つまりこの考え方が(有)コミュニティ・アイの「リジョイス・マネージメント」であります。
仕事を徹底的に楽しむことが、最大限の結果を生む原動力となると信じること。当社では現在、青森、宮城、山形在住の障害者の方(5名)たちとコラボレートしながら、ネットワークを介して作業を分担し、業務を遂行しております。それぞれに障害の種類も度合いも違う仲間が、ネットに集い互いの能力を認め合い、徹底的に仕事を楽しむ。体験的理念に支えられ、私たちはこの混沌とした平成不況真っ只中のビジネス社会に胸を張って船出をしました。行き着く先はまだ判りませんが、どんなところに行き着いたとしても、きっと私たち自身はその場で大いに楽しんでいられることでしょう…。
n 古瀬 幸広・広瀬 克哉 『インターネットが変える世界』 (岩波新書, 1996年)
n イヴァン・イリイチ『コンヴィヴィアリティのための道具』(渡辺 京二・渡辺梨佐 訳、日本エディタースクール出版部、1989年)
レビュー: http://www.syugo.com/germinal/review/0042.html)
参考サイト
福祉パソコンネットワーク山形: http://www.community-i.com/funy/
湯の浜温泉「ホテル福住」: http://www.community-i.com/fukuzumi/